◆医療の常識が変わった
世界的に、医療の「常識」が変わってきました。その突破口を開いたのが、2010年に米国の現役医師たちが起こした、「不要な検査や、無駄であるばかりか有害な医療を排除し、賢い医療を選択しよう」という運動です。
そして2012年には、米国の内科専門医認定機構財団(ABIM Foundation)が賛同し、「賢い選択」(Choosing Wisely=チュージング・ワイズリー)のキャンペーンが始まったのです。
この潮流は一気に拡がり、全米74の医療分野の学会が賛同して、400項目以上の無駄な医療や有害な医療がレポートされるまでになっています。なぜここまで、この運動が広まったのでしょうか?
現在ではカナダ、ドイツ、イタリアなど17か国に波及し、2016年10月には日本でもチュージング・ワイズリー・ジャパン(CWJ)が立ち上がりました。
ところが、「賢い選択」は日本ではなかなか浸透しません。その背景には、2つの現状があるようです。
1. 医療関係者側の現状
〇大手病院の医師は忙しくて、ゆっくり問診をする時間が取れないので、患者からの情報不足を補おうと、つい過剰に検査をしてしまう。
〇検査の回数や薬の種類が多いほど点数が加算されて、収入が上がる制度になっているので、経営的に過剰な検査や過剰な薬投与を生み出しやすい。
2. 患者側の現状
〇日本が誇る国民皆保険は自己負担率が3割(75歳以上は1割)と小さく、その分、医師や医療機関に依存しやすいので、世界一の病院好き・薬好きになっている。
〇たくさん検査してもらって、たくさん薬が処方されると安心し、それを当たり前だと思っている。医師や薬が得意な感染症や事故が多かった、ひと昔前の医療神話をいまだに引きずっている。
もちろん薬が必要な場合はあります。しかし薬は作用(効き目)が強くあれば、副作用もそれだけ強くあります。そして中高年になると、副作用がより出やすくなります。その筆頭が、筋肉と脳への副作用で、転倒骨折による寝たきり、記憶障害による認知症というケースです。
「薬は必要な時に、必要最小限だけ」が鉄則です。私たち自身が、処方されるのが当たり前と思ったり、とりあえずとか心配だからと、安易に服用しないことです。
さて、米国で「賢い選択」がなぜ広まったのか?
それは、患者の側に「医師からしっかり説明を求めてから選択する」という土壌があったからです。医師に質問する力や最低限の知識を持っています。
この知識の力が、医師の側に「自分が患者の立場だったらどんな医療を受けたいか」「自分が受けたくない医療を患者に提供しない」という意識を醸成させていったのです。つまり、医療の常識を変えたのは、患者側の「知識」だったのです。
下の図をご覧ください。医療費が膨れ上がるのは70代からです。これに、さらに介護費が加わります。自己負担率がアップしたら大変なのです。
私たち50代60代は、自分のためにも、後に続く世代のためにも、医療や制度に対する最低限の知識を持ち、当たり前と思っている「常識」を自ら見直していくことが不可欠なのです。
現在は100歳時代という新しい状況に向かっています。そのため現代医療も、認知症や寝たきりなど、別名「長生き病」と呼ばれる新しい病気に苦戦しています。
長くなった人生を完走するためには、私たち自身が“新たな戦略”を持つ必要があるのです。その一つが、中間点の50歳を境に、女性も男性も「子供を作ったり、養っていくための体」から「長寿のための体」へ自らシフトしていくという戦略です。
そこで今、価値が高まっているのが「医食同源」や「食養生」という先人の知恵です。
この本質をしっかり掴んで、新たな戦略の中に組み込むことです。そのためには、体の構造や新陳代謝の仕組み、体と脳の細胞を作る食、食の力に対する知識を持つことが大切です。
そのうえで、自分の健康は自分で守っていくという姿勢を貫いていく――。これが私たち現代人の賢い選択だと思います。