■人生の再設計を50代で。
昨年11月に発売された「ライフ・シフト—寿命100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著、東洋経済新報社刊)が各地で読書会も催されるなど、反響が続いています。
その内容を大まかに言えば、こういうことです。
●寿命100年時代に向かう中で、これまで常識とされていた、「教育を受け、仕事をして、引退して余生を過ごす」という3ステージの人生は終わります。
●そしてこれからは、「教育を受け、一旦仕事に就いても、退職して学び直しをしたり旅に出たり、転職したりNPOに参加したり、起業したりと、転身を重ね、より多くのステージを経験する」というマルチステージの人生へシフトする。
今はその移行期ですが、現50代の人は、仕事人生の終盤に当たる時期(これまでの常識ではそうなります)を過ごしています。だからこそ、率先して意識を変える必要があるのです。
会社の人事システムの多くは、定年60歳、65歳までの再雇用ですが、これは「ライフ・シフト」が指摘する3ステージモデルそのものです。
現在の定年や再雇用も、年金支給年齢などの社会システムも、人生70年だった1960年代に制度設計されたものを、生涯寿命が伸びるに応じて、少しずつ修正して繕ってきたものです。
しかし、この制度変更は寿命の伸びに充分対応できていません。そのため現50代は、現行の人事システムや社会システムを基本にして人生設計をすると、落とし穴にハマってしまいます。
国も問題の先送りは限界だと考え、2020年を日本の「第二創業期」元年とし、「人生100年時代の制度設計特命委員会」(事務局長は小泉進次郎氏です)を立ち上げてあらゆる制度の再設計を進めています。元号も変え、戦後日本を総決算しようとしています。
60代後半の団塊世代は「最後の逃げきり世代」と言われてきましたが、実は決してそうではないのです。退職金の額や年金支給年齢では恵まれましたが、引退後を公園や図書館、テレビの前でひとり過ごすには、人生はあまりに長く退屈です。長くなったセカンドライフの設計を考えなかった人が多いのです。
「キョウヨウ」と「キョウイク」がない(今日、用がない。今日、行く処もない)という状態で家にこもり、朝・昼・晩と食事を期待すると、そのうち家族に邪魔者扱いされます。刺激がほとんどない毎日では、知力も体力も衰えて、認知症や寝たきりになってしまいます。
著者のリンダ・グラットン女史は、週刊東洋経済インタビューの「本書で日本の読者に一番伝えたかったメッセージは?」に対し、このように答えています。
1. 長寿化する人生では、ある時期には自分への投資に専念し、人生のステージを自ら変えていく必要があります。そして40代や50代は人生の再設計をする時期です。
2. お金に換算できない価値、つまり「健康、人脈や知識、スキル」といった無形の資産はあなたの人生を変えてくれます。特に、長期化した人生を生きるためには、健康はライフ・シフトでまず準備すべきことです。
ライフ・シフトは直訳すると、人生の転換という意味です。それは価値観の転換であり、生き方の変更なのです。ライフ・シフトのフロントランナーになる45から60歳の人は大いなる可能性があります。目の前の忙しさに流されず、人生全体の再設計をし、60歳からの人生の準備を始める時期です。