マナー研修の思い出

もう今から20年前の話ですが、マナー研修のことを考えるといつも思い出すことがあります。前職の会社で、ある上場企業の新人女性営業部隊の仕事を部下が受注してきました。けれどもそれは研修だけではなく女性営業員の定着と戦力化という中々大きな命題の仕事でした。

というのも4年前から全国の営業拠点で働く女性営業員を本社で一括採用しているのに、一年間持たずに全員退社するという現状をその会社は抱えていたのです。個人的に“女性営業応援隊”を自負していた私は、お預かりする新人女性12名が必ず一年後、全員辞めない状態で迎えさられるようにするぞと張り切っていました。

営業の基本研修から始まり、客先への営業同行、新人だけのミーティング、上司の仕事への巻き込み方、商品知識の強化等…、様々なプログラムを提供していきました。

最初は皆張り切って頑張っていましたが、本社での研修期間の合間に、それぞれ配属された営業拠点に実習に行くと、その営業拠点での様々な問題点に直面して、皆元気なく戻って来るのです。トイレも更衣室も男性と一緒の所しかないとか、女性営業は仕事で高速道路を使ってはいけないだとか…、私が聞いてもそれはないだろうという問題点が山積みでした。

社長の鶴の一声のまま、4年前から女性営業の採用を始めましたが、現場には全く女性営業員を育成する土壌がなかったのです。社長の本来の意図が現場に伝わっていませんので、現場では女性営業が加わった姿をイメージして職場環境を整えるとか、女性営業の活かし方を考えるどころか、厄介だなとさえ思われていたのです。

また、研修の一環で客先に新人と営業同行した際に、「女の子は店に営業に来ても、商品の片付けさえ出来ないからな。この業界は店に来た時に、そこで如何に重い商品を持てるかが勝負だよ」と聞かされたりしました。そんな様々な整備されていない現実を突きつけられ、12名は、大小はありましたが落胆して笑顔が消えていきました。

そこで気分転換も兼ねてという軽い気持ちで、会社のマナー担当の講師に「マナー研修」をお願いしました。依頼した講師は私の中学時代の親友です。学生時代は、昼休みに銀杏の木の下で本を読み、テレビはNHKしか見たことがないという文学少女で、お嬢さんだった彼女は、科学博のチーフコンパニオンを経て、久しぶりに会ったら、アナウンス、マナー等々「何でもござれ」の逞しい講師に変身していて私を驚かせました。そして私がお願いして会社に入ってもらったというピソードの持ち主です。

彼女が行った研修は、「きれいな楽しい歩き方」、「人を惹きつける所作」、「心地よい声の出し方」…、広い体育館を使い、とにかく楽しい行動的なものでした。研修が始まると12名の顔に笑顔が戻ってきました。形を整えることが心も整えることに繋がったようです。

軽い気持ちで依頼した研修でしたが、今でも実施して良かったと思っています。自分自身を整えることは、自信に繋がるのです。何処に行っても、誰に会っても私は大丈夫と皆感じたようです。その笑顔を持って、研修期間が終了して、皆、営業拠点に配属されていきました。

苦労しているという便りが頻繁に届きましたが、研修でお世話になった方達のために一年間は頑張りますというメッセージも届きました。そして何より皆、後悔しないように自分のために努力していました。それを可能にしたのは、彼女達に「美しい自信に溢れた自分」を気付かせてくれたマナー研修だったと思います。

 

 

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