企業の人材育成
会社資本の三要素は、「人的資本」、「物的資本」、「金融資本」です。所謂、「ヒト」、「モノ」、「カネ」です。この三要素の中の「人的資本」の充実を図るため、人事部が責任部署となり、成果はともかく、長年に亘り、一所懸命“人材育成”に取り組んできました。
一時は研修を担当する会社は個人営業も含めて、7000社あると言われていました。それ程、研修は盛んだったのです。
そして「人的資本」の三要素は、【知的資本】、【モチベーション】、【健康資本】です。この三要素の中の【健康資本】に対しては、健康は個人の問題だとか、投資効果が可視化できない等の理由で、企業は積極的に取り組んできませんでしたが、残りの【知的資本】と【モチベーション】に関する研修には、企業はこれまで十分に取り組んできました。
私が研修業界に入った頃は、【知的資本】強化一辺倒で、何しろ色々覚えるという研修が多かった様な気がします。部下指導の方法、OJTの進め方、営業活動のやり方、商談の進め方、接遇マナー等々。私は営業担当として、お客様に商品内容(研修内容)を説明しなければならない立場にあり、こんなに多くのプログラムを覚えなくてはいけないのかと、途方に暮れたものです。
その中で、私が特に力を注いだのが「女性活用」のプログラムでした。1986年に施行された「男女雇用機会均等法」の影響で、企業は女性社員の活用に取り組んでいました(取り組まざるを得なかったのです)。如何に組織の中で女性を活用していくかを考えるのが流行っていましたし、上場企業では早速「女性の営業部隊」や「女性の開発チーム」が発足しました。
しかし、どれも定着するまでには到りませんでした。それどころか、張り切って企業に入社し、自らも、周囲からも活躍を期待し、されていた均等法世代と言われる女性達は、その多くは夢破れ、困惑し、企業を離れていきました。
その頃私達の提案する「女性活用プログラム」は当の女性社員よりも彼女達を活用、指導すべき管理職向けの研修にシフトしていました。今まで補助的役割が多かった女性をどう活かすのか?その為には、どの様な考え方と行動が管理職には必要なのか?連日、知識として「女性活用」を考える研修があちらこちらの企業で実施されました。
後発の研修会社でしたが、大手の企業から次々と受注を受け…、営業だけでなく企画も担当するようになった私としては、ニコニコ顔の日々でした。その勢いに乗って共著で本を出版するほどでした。そして、私達が提案する「女性活用の管理職研修」には紆余曲折もありましたが、人気のプログラムになりました。
しかし元々考えていたこととは離れて、単なるノウハウ研修になってしまったような気がします。知識を得ることは悪いことではありませんが、根本の考え方や思想を十分理解せずにやり方だけ知るのでは、研修そのものが起きている問題に対する“対症療法”に終ってしまいかねません。人気の「女性活用の管理職研修」はそういうことを実感したプログラムでもありました。