◆ポスト平成時代の健康戦略(その3)

「今日も一日頑張ろう」―― 保険関係の企業に勤める30代半ばのA氏は、毎朝、会社が入っているビルに設置された自販機で缶コーヒーを買います。それを持って自席につき、飲みながらパソコンを立ち上げメールチェック。こうして一日を始めるのが日課です。

ところが、糖尿病専門医として38年間、20万人以上のビジネスパーソンを診てきた牧田善二医師はこのように言っています。

「缶コーヒーは悪魔の飲み物。口にするのは絶対に避けたほうがいい」「カフェで売られている入れたてのコーヒーとは全くの別物。砂糖の塊が解けた液体に過ぎず、健康に悪いことはあってもi良いことなど1つもありません」

「缶コーヒーに限りません。自販機やコンビニで売られている身近な飲料は、大量の糖質を含んでいるものが多いのです。コーラなどの甘い清涼飲料水に糖質が多いのは分かっているでしょうが、注意が必要なのはいかにも健康に良さそうな商品です」

「本来、健康な人間の体内には約4.5リットルの血液があり、その中の血糖値は空腹時90mg/dlです。つまり、血液中には4グラム前後の糖が存在します。それだけあれば十分だから、この数値なのです」

「では、4グラムでいいところに、缶コーヒーなどを飲んで、いきなり大量の糖質が入ってきたらどうでしょう。しかも一気に吸収される液体の糖質です。人間の体が全く想定していなかったとんでもない事態が起きるのです」

この、とんでもない事態というのが下の図です。

「液体の糖質は口にしてすぐに血糖値が上がり始め、30分後にはピークに達します。缶コーヒーを1本飲めば、高血糖でない健康な人でも30分後には血糖値が140くらいまで急上昇します。これを血糖値スパイクと呼びます」

「血糖値スパイクが起きると、今度はジェットコースターのように一気に下降して、血糖値が低過ぎる状態になります。

「血糖値がぐんと上がると、セロトニンやドーパミンといった “脳内物質” が分泌されて、ハイな気分になります。だから、仕事の前に気合いを入れるには缶コーヒーがピッタリだと誤解してしまうわけです。このハイな気分になるところを至福点と言います」

「一方で、血糖値が上がったことを察知した体は、それを下げるために慌てて膵臓から大量のインスリンというホルモンを放出します。そして血糖値が急激に下がります。

「血糖値が大きく下がると、ハイな気分から一転、イライラしたり、吐き気や眠気に襲われたりと不快な症状が出ます。するとあのハイな気分になりたいと、血糖値を上げる糖質が欲しくなり、同じことを繰り返してしまうのです」

「これは、《糖質中毒》という脳がおかしくなってしまった非常に深刻な症状です。しかし、中毒に陥っている本人には、その自覚が全くありません」

このように牧田医師は、「ビジネスパーソンの多くが知らず知らずのうちに《糖質中毒》になっていて、そして《血糖値スパイク》を繰り返すことで、日々のイライラを始め、脳や体の細胞を徐々に壊して、やがてMCI、人工透析、がんや脳梗塞といった病気までも引き起こしていく」と言います。20万人のビジネスパーソンを診てきた経験からの警鐘です。

「老化や病気のリスクを解消するためには、ミネラルウォーター以外の液体飲料はできるだけ避ける。缶コーヒーや野菜ジュースを毎日飲む習慣は止めるのが賢明だ」ということです。

ところが、液体は避けることができても、悩ましいのはごはんや麺といった主食の固体です。普段、ランチで食べているものの糖質量を下記の図でチェックしてみてください。

「ごはんや麺など固体は、液体と違って、消化に時間がかかるので血糖値の上昇が緩やかです。それでも、1食当たりの糖質量が40gを超えると《血糖値スパイク》を起こしてしまいます」

ごはん1膳、おにぎり2個、ざるそば1枚でも、40gを超えてしまいます。品種改良されて美味しくなった分だけ、糖質量が増えているのです。でも、ごはんや麺に比べて、魚や肉、卵には糖質量はほとんどありません。つまり、外食のランチは、例えば「牛ハンバーグ定食やとんかつ定食であれば、ごはんを半分以下にする」というのが良さそうです。

「血糖値に関して、健康診断は当てになりません。空腹時の血糖値やヘモグロビンA1c値を測定するだけで、食後の血糖値を調べないからです。そのため自分の体の中で《血糖値スパイク》が起きていることに気づけません。あなたもその1人かもしれません」

牧田医師の言葉を俄かに全て納得できないかもしれませんが、私達の健康は私達が気づかないで壊していることも多いということは理解する必要がありそうです。

(その4に続く)

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